2020年夏、北海道の絶景をバイクで巡る9日間の旅に出ました。日本海沿いのシーサイドライン、野性味あふれる道東の道など、ライダーなら一度は走りたい絶景ロードの数々を走破。そんな感動体験を、一眼で撮影した高精細写真とともにレポートします。
Day3では、なだらかな丘陵地が美しい「富良野・美瑛」、そば生産量日本一の「幌加内」、日本海に沿って延びる「オロロンライン」などを巡りました。
それでは、北海道を巡る絶景ツーリング紀行、Day3のはじまり はじまり
Day3の主な旅程
朝の支度と出発
「メェ~、メェ~」
何の音だろう?
テントの外から聞こえてくる鳴き声に目を覚ます。
眠い目をこすりながら外に這い出て見ると、すぐに鳴き声の主がわかった。
羊だ。
一体これは何なのだろう。寝ぼけた顔でぽかんと立ち尽くしているうちに、だんだんと状況がつかめてきた。
そうだ、何も不思議なことはない。
ここは北海道なのだ。
富良野
人懐こい羊たちに別れを告げ、「星に手のとどく丘キャンプ場」を後にする。
本日は晴れ。自然たっぷりの中を一直線に続く道を走る。ただそれだけで気持ちがよい。
空の青と田畑の緑、川を流れる澄んだ水。次々と目に飛び込んでくる美しい風景に見入ってしまう。
北海道は基本的に直線道路が多いが、こうした丘陵地の直線路はひと際目をひく。
パノラマロード江花
風光明媚な景色がたくさんある富良野において選りすぐりの絶景スポットをまとめた、「かみふらの八景」というものがある。
その中の一つ「パノラマロード江花」は、十勝岳連峰とパッチワークの丘のパノラマを眺めることができる絶景道だ。
盆地より50mほど標高の高い丘の上から、富良野岳の麓に向かって伸びる5kmにおよぶ一直線の下り坂。ひたすらまっすぐな道を下っていけば、まるで大自然に吸い込まれるような感覚を味わえる。
周囲に広がる黄金の麦畑もまた素晴らしい。広大な土地一面に広がる麦畑は、まさに北海道らしい風景だ。
ジェットコースターの路
次に、かみふらの八景の一つ「ジェットコースターの路」を訪れる。人気の高い観光スポットだ。
急降下、急上昇する高低差が激しい2.5kmもの直線道路。アップダウンの激しさにちなんで名付けられたその名前に偽りはない。
絶叫マシンが苦手なライダーでも、好きなバイクと一緒なら楽しめるかも?
7月下旬、あちこちで収穫を終えた麦畑には麦稈ロール(麦わらロール)が見られる。畑に転がっている、あのコロコロだ。
これも北海道ならではの光景だ。畑にちょこんと佇む様子が、なんともかわいらしく見える。しかし、広大な土地のせいで一つひとつは何となく小さく見えてしまうが、近くで見ると実際結構大きくて驚く。
そして、次なる絶景道を目指して国道237号を北上していく。その途中にある深山峠も「かみふらの八景」の一つ。
峠と言っても、険しい山の中ではなく丘の上にあるので、周囲にはのどかな風景が広がっている。夏にはラベンダー畑とパッチワークの丘が望める景勝地だ。
美瑛
富良野の素晴らしい景色を堪能した後は、美瑛へと向かう。まるで絵本に出てきそうなメルヘンチックな風景が広がる美瑛。
過去にたくさんのCM撮影や商品パッケージの風景になったことも有名で、その美しい景色を一目見ようとたくさんの観光客が訪れる。
昭和47(1972)年に日産「愛のスカイライン」のCMで取り上げられたポプラの木(通称ケンとメリーの木)。定番のツーリング・ドライブスポットだ。
就実の丘
美瑛にほど近い場所にある「就実の丘」。これもアップダウンが激しい直線路。
まっすぐに伸びる道が、まるで天につながっているような感覚を味わえる。
こんな面白い錯覚もあった。
彼方に見える山に向かってまっすぐ伸びる道の先に空が見えていて、そこから対向車が現れると、まるで空を走ってきているような感じがする。
旭川市内
美瑛から稚内方面に北上する途中、旭川市内に立ち寄る。
北海道のちょうど真ん中あたりに位置し、札幌市に次いで北海道第2位の人口(約33万人)を有する中核都市だ。
旭川市内にはちょっと珍しいものがある。日本ではほとんど見かけない、ロータリー交差点だ。信号機がついているので、いわゆるラウンドアバントではないが、他ではなかなか体験できない交差点に進入してみるのも面白い。
同市を象徴する旭橋を渡って、さらに北を目指す。
緑の中に赤い欄干が映えるメロディー橋。
幌加内
苫前を目指して国道275号を北上していく途中で、幌加内町を経由する。
幌加内町は、ソバの産地として知られ、作付面積・収穫量ともに日本一を誇る。また、2015年の国勢調査では人口密度が日本一低い町となった。
辺り一面のそば畑の中を駆け抜けていく。
朝から走り続けてきて少し一休みしたいと思っていたところにちょうどよく温泉があったので立ち寄る。
凝り固まった身体がほぐれ、リフレッシュすることができた。
霧立峠
国道275号と国道239号が交差する付近に、幌加内そばを提供するそば処がある。
お腹も満たされたところで、国道239号を西に向かって日本海を目指し、霧立峠を超えていく。
その名の通り、峠付近では霧が立ち込めていた。よく舗装された片側1車線の道路は、道幅も広く走りやすい。
峠の向こう側で晴れ間に変わる。しばらく走っていると、何かの動物が路上からこちらを見ているのに気づく。
キタキツネだ。
過去に人間に餌付けされたのか、停車するとこちらへ寄ってくる。一定の距離を保つために走り出して離れてUターン、再度停車。するとまた寄ってくる。
こうして止まってくれる人間を待っているのだろうか。見た目は可愛いが、相手は自然環境に生きる野生動物。
むやみな触れ合いや餌付けは、生態系を壊してしまう。また、キタキツネはエキノコックスという感染症を人間にもたらす。とにかく近づかないようにすることが賢明だ。
この素晴らしい北海道の自然を後世に残していくためにも、自然との共生を意識したい。
苫前を目指して西へ向かう。
放牧中の牛が草を食んでいる。牧歌的な風景に心が和む。広大な北の大地で先を急ぐ必要はない。のんびり行こう。
日本海オロロンライン
国道239号を抜ければ、日本海に沿って全長約300kmの道がのびる日本海オロロンラインに出る。
少し観光したい場所があったため、左折し留萌方面へ。20基もの風力発電機が立ち並ぶ、苫前グリーンヒルウインドパークだ。国内初の大規模風力発電所は、近くで見ると圧巻の眺め。
日本海から吹きこむ風でくるくるまわる風車群を背にして、オロロンラインを北上していく。
海岸を走る道から西を向けば、すぐ近くに太陽が輝いている。
あと2時間もすれば日が沈むだろう。日没前にはキャンプ場に到着できそうだ。
海沿いを延々と続く道。羽幌町から先にはもう、稚内まで大きな町はない。だんだんと、道以外には何もなくなっていく。
いよいよ最果て感が漂ってくる。
何もない道をひた走る。時折、点在する民家を通り過ぎると、また何もない道になる。最北端まで続く道。交通量が少なく信号機もないので、流れが非常に早い。
法定速度60kmの倍近い速度で疾走していくクルマもいて、感覚がマヒしそうになる。「ここ、下道だよな…?」
みさき台公園キャンプ場
本日の宿泊地は「みさき台公園キャンプ場」。崖の上から日本海を見渡せる抜群のロケーションながら、無料で利用できるのだから素晴らしい。道の駅も併設され温泉施設があるのも嬉しいポイント。
すでに日が沈みかけていたが、夕暮れ前には設営を終える。周りを見るとソロで来ているライダーも多い。きれいな夕日が眺められるスポットとしても知られていて、ここを訪れる人はほとんどがそれ目当てだと思われる。
今夜のキャンプ飯は、炊き込みご飯。赤貝の缶詰と白米だけでつくる、超簡単な絶品キャンプ飯だ。
ちなみにこのクッカーがかなり優秀で、キャンツーに行くときはいつもこれで調理しています。 信頼・安心の国内メーカー「snow peak」製の定番品で、コスパも最高ですよ。
夕暮れ時になると、皆一様に西の空をただ静かに眺めている。各々が物思いにふけっているのだろうか。そんな光景が印象的だった。
夕日がだんだんと沈んでいき、世界が赤く染まっていく。一日の終わりを感じさせるドラマチックな情景に心を打たれる。
間違いなく、いままでの人生の中でいちばん美しい夕焼けだ。
空と海の境界線があいまいになっていく。なんだか世界が終わってしまうような感じがして、少し寂しくもなる。
夕日が完全に沈んでしまった。今度は、世界が赤から青に変わっていく。
そして、夜が来る。
他に明かりがないせいか、月の光がやけにまぶしく感じる。
振り返ると、朝から晩まで一日中、素晴らしい景色に出会うことができた。北海道にきて本当によかったと、しみじみ思う。
充足感に包まれながら、夜が更けていった。
Day3 の走行距離 : 270km